S邸 制作過程



現在進行形で進んでいるのが、S邸の塀と駐車場の制作。

母屋はすぐ隣にあり、こちらはゲストハウス?だそうです。また、S氏は芸術に対して造詣が深く、至る所に芸術作品を展示されています。芸術に造詣が深いだけあって、家や車もどこかセンスを感じる方です。制作中もちょくちょくのぞきにこられては声をかけられる、気さくな方でもあります。母屋の庭も我が社で作庭させていただき、初代社長からのお付き合いさせていただいております。

こちらの庭は、メインに枝垂れ桜。周りはまだまだ制作途中なので砂利などが敷き詰められた状態です。最近では、家ばかりを目立たせ、庭がただの添え物となって家と庭の一体感の無い家庭が巷に溢れてますが、S氏邸の庭は家と庭とがベストマッチしており、互いが互いをひきたてている、素敵なお宅です。(こちらもいずれご紹介できればと思います。)
こちらの庭ははてさて、どういう庭になるのか…。随時更新していきますので、お楽しみに。


塀は、素敵な和風建築にマッチするようなデザインを考案。
和風建築を得意とする、中野建築工房さんとのコラボレーションです。



これは、塀の下部に当たる部分。石を積んでいる様子です。
社長自ら資材を買い付け、厳選したものを使用します。

ぴったりと石が組み合わさるような形を選び、必要ならば削り…という具合に、少しづつ積み上げていく、根気のいる作業です。




一通り組終えた段階です。
ただ石を積み重ねただけ…とはいえ、ここまでで3日はかかっています。延べ作業員は1日4人で12人でしょうか。結構手間暇がかかる作業であります。最近はこういう手間のかかるものは好まれないのか、久しぶりの石積みだそうです。




公道との間に、長細い石を敷き、丁寧に削ります。
一日中削っていたので、数日間手のしびれが取れませんでした。(笑)




門になる部分を、中野建築工房の大工さんたちが据え付けしています。
遠くから作業を見守っているのが、中野建築工房のドン。厳しい眼差しです。




ここが駐車スペースとなるところです。芯を入れ、生コンを流すのですが、コンクリートが膨張して割れるのを防ぐための目地板を敷設しているところです。案外モルタルを沢山使います…。腰が痛い…。(2012/05/31)








芯材を入れたところ。
こうすることで、より強度が増します。



生コンを流している時は、ドタバタしすぎていて撮影ができなかったのですが、これは生コンを流した後に表面を洗い流して中の砂利が見えるようにしているところです。この技法を、洗い出しと言います。生コンを上下隅々まで行き渡したうえで、表面近くにも砂利をもってこなければならないので、生コンを均らす時も気を使います。

アクリル画の技法にもこのような技術があるので、興味深げに見入ってしまいました。なかなか面白いですね。



アップしてみます。



これは、洗い出した後にさらに酸を使って洗った後の様子です。
水で流しただけだと、コンクリートが表面に残っているので白っぽいですが、こうすることで石の色味が見えるようになります。



このサイズが4枚分あるので、作業しやすいように日を分けて制作しました。





そして、忘れてはいけないのがこのメインの塀。最近は、こういう塀を求められる方がいなくなり、富山…いや、全国的に見ても極めてまれな存在となったのではないでしょうか。

竹の枝を丁寧に選別し、あてはめていきます。枝の方向や、高さなど、細かく選別して何重にも重ねていきます。並べる方向や掛け合わせる向きもあるので、非常に手間のかかる仕事です。もちろん、はじいた枝も大量に出ますので、トラックに数台分の材料を用意してようやく出来ました。現代的な合理性を追求した塀とは、まさに対極にある仕事と言えます。



この上に、さらに大きい枝を重ねていきます。
その際、最終的に重ねた枝が映えるように、奥にある枝は細かいものできっちりそろえる必要があります。ただ枝を敷き詰めただけではないのです。




このようになります。




そして完成…ではありません。
最後に、上の飛び出た部分を切りそろえないと。




びしっ。



完成が…
…と、その前に、玄関へと続く敷石設置の様子を。



レッカーやバックホーを駆使して、飛び石を据え付けていきます。
すべて社長自ら厳選した材料を使用しています。




これは御影石を据え付けたところ。


左の大きな飛び石の横に、枝垂れ桜があります。
玄関にただいきなりは入れず、こうして庭の木々を眺めながら玄関へと入るつくりになっています。合理的ではありませんが、不合理を楽しむのも一つの文化と言えるでしょう。




こちらは、母屋とゲストハウスの間の敷石です。
大谷石を使用しています。


一度、個人的に大谷石の産地へ見学に行ったことがあるのですが、切り出している地下はとても涼しかった記憶があります。さすがに産地だけあって、どこの塀も大谷石が乱立していました。当時は別に大谷石に興味があったわけではないのですが、切り出している場所がとてもきれいだったので、撮影目的で行った覚えがあります…。日本一周の旅をしていたころの話です。(2012/06/27)







さて、塀が一段落したところで次は中の植栽です。
社長自ら厳選した台杉を使用します。



結構でかいです…。
台杉とツバキを合わせて、計10本以上植栽しました。広さの割には少し少なめですが、あまりごちゃごちゃ多くせず、すっきり見せようというのが今回の社長の狙いです。
ちなみに、Sさんの庭とお隣さんの庭との間に垣根はありません。お互いが、庭を相互に楽しめるように、取り付けてないのです。要するに、お互いが「借景」をして引き立てあっているのです。今時珍しいですね。

隣人の庭の枝が入っているとか枯葉が落ちたとかいう理由で、大きないざこざもある渡世ですが、Sさんとお隣さんの間には庭に対する関心の深さと、それを通じて良好な関係を気づかれていることが容易に想像できます。これも、Sさんの人徳のなせる業でしょうか。





慎重に吊り上げます。
塀の奥からは、ロープをかけて向きを意図的に操っているようです。



熱心に指導する社長。
木に縄などを巻いているのは、吊り上げたときに木の皮が痛まないようにするためです。また、根の周りも土が落ちないように、しっかりと根巻きしてあります。土が根からとれてしまうと、わずかの時間であっても枯れる心配があります。





植栽したばかりの木にたっぷりと水分をいきわたらせるように、この後根本の周りに水鉢と呼ばれる土の壁を作ります。そこに水をやれば、流れずに水がたまるというわけです。






この台杉があるのとないのでは、随分雰囲気が違いますね〜。
庭は庭だけでは成り立たず、家も家だけでは成り立たない。家と庭が互いに引き立てている、よいお手本が今完成しつつあります。(2012/07/07)







さて、作庭も大詰め。
今日は大きな石を据え付けます。

極太のワイヤーを使い、慎重に作業します。

石は所々、苔やカビが生えていて、とてもいい味わいを出しています。弊社のとっておきです。




台杉以外には、ツバキも植えます。
台杉ツバキ、枝垂れ桜というシンプルな構成です。

台杉だけではすっきりしすぎたり、また近隣からの目隠しとして成り立たないので、ツバキを二本並べて植えます。どちらかというと、メインを引き立てるためという感じがします。やや混んで植えているところと、すっきり見せるところと、あえてつくることでよりメインを引き立たせる効果もあります。




偶然飛行機雲が見えたので記念に。(笑)





塀に沿って台杉を並べていきます。




カラーコーン和風Ver。




さすがに石が大きすぎるので、4tレッカーでは吊り上げることができず、大型のレッカーをレンタルしました…。
塀をつくる前に石を据え付けるという方法もあったのですが、いったん塀ができてからの雰囲気を見て、使う石を決めたかった社長の判断でした。




でかい!




この辺りに石を据え付けます。





写真でみればすぐですが、結構時間かかっています。(笑)
苔やらカビやらが生えていて、非常に趣のある石です。石も、ただ置くのではなく、しっかり位置を考え、一部分を埋め込みます。大事な作業です。





石は合計で3つです。




枝垂れ桜と椿の周りは山砂を盛って、ヤブランを植え付けていきます。いくつか花が咲いていました。
庭好きのご依頼主ですので、きっと除草もこまめにされるでしょう。




植え付ける時も堆肥を混ぜ込みますが、この後この上にさらに堆肥をかぶせていきます。




う〜ん…出来てきましたね。
ちなみに、山砂をすり鉢状にしているのは、ここに水がたまるようにする為です。これを水鉢と言います。日に二度、朝夕水を与えます。根付くまではしっかり水をやります。




奥の庭は、お隣の庭です。

折角なので、塀を取り付けずにお互いの庭が一体になっていてとても良い雰囲気です。これが実現したのも、S氏の人柄があってのことでしょう。





伊勢砂利をひいていきます。

黒いシートは、防草シートといって草なんかが下から生えるのを阻止するためのものです。ロール状のものは、大の男二人がかりでようやくもてる程の重さです。これを敷くのも結構骨が折れる…。

そして、t袋に8つもある伊勢砂利をひいていきます。
これがまた大変…。




水鉢に堆肥を被せていきます。
白と黒の対比がとても美しいですね。





ほぼ完成の図。

すっきりしていて品のある、良い雰囲気ですね〜。





そして遂に完成!!!!!


次回、ちゃんと一眼レフで撮影したものを掲載いたします。
お楽しみに。(2012/07/18)





【2012/07/20】S氏邸庭 完成記念披露。






…と、いう訳でS氏邸庭、完成披露です。
(※数回に分けて撮影しているため、それぞれ撮影時期は異なる場合があります。)




S氏邸(ゲストハウス) 正面になります。
塀の前のスペースは、駐車スペースなっています。

塀から見える台杉と、塀と、家とがまさに一体になっていて、とても趣があります。この、どれか一つがなくてもこの一体感の織り成す趣は、得られなかったことでしょう。このような塀は、京都のような特別な地域を除けば、かなり少ないのではないかと思われます。




左手に見えるのは、枝垂れ桜です。
残念ながら今年の春には間に合わなかったのですが、来年の春、この庭と満開の枝垂れ桜の合わさった様子は、是非とも見てみたいですね。




横から見た様子。

丁寧に組んだ石の形状が、面白味を出しています。






屋根があることで、塀の寿命も飛躍的に伸びます。

例えるなら、屋根つきの車庫にあるバイクと、バイクカバーをかけずに外に放置してあるバイクの差くらいです。わかりにくいですか?(笑)





細かい竹の枝を何重にも重ねた上に、太い枝をもってきます。そうすることで、より太い枝が目立つようになります。





駐車スペースの横には、コグマザサが植えてあります。





電柱が一緒に立っているのですが、このおかげで存在が気になりにくくなっています。





二階の格子と、台杉と、塀とが、非常によく調和しているのがわかります。






一番のポイントは、この正面にある台杉でしょうか。
全て見せず、すべて隠さず、ちょうど良いポイントに配置してあることがわかります。





角度を変えてみてみましょう。

この台杉は、まさにここに植えるためにあると言っていいほど、しっくりきていることがわかります。









中に入って見てみましょう。

伊勢砂利の白と、堆肥の黒、そして台杉の配置が庭の品格をより一層高めています。奥にある小さめの石、それほど際立っていない椿。そして、手前の台杉以外の台杉。これらは一つの作庭意図に基づいて綿密に計算されたものです。

庭は、どれもこれも豪華な木々や石を配置することも一つの価値観ですが、このように演出するため、あえて目立ってくるところと目立たないところを意図的に配置することでより多くの人の心をとらえる庭となるのです。立派な台杉ばかりを使用していたのでは、このような雰囲気は生まれなかったことでしょう。

ただ並べるだけではダメなのです。
形だけどこかの「庭園風」を用いても、それはあくまで形にすぎません。パッと見それっぽくは見えますが、内容は雲泥の差と言えるでしょう。




仕事中、何度もこの椅子に座って休憩させていただきましたが、とても落ち着ける庭です。涼しい夏の夜に、こんな庭でみんなで酒でも呑めたら美味しいでしょうね〜。

我が家にもこういう庭が欲しいのですが、いかんせん木々が多すぎて蚊が多く、不可能な状況です。(笑) S氏の庭はほとんどそういう虫類がいないそうですが、それもピンセットを使ってまで草を根絶されている努力の賜物でしょう。





メインの台杉の下にある石から、庭の奥を見てみます。
裏に植えてあるのは、ヤブコウジです。

ただ規則正しく台杉を配置するのではなく、ポイントポイントで石を配置することで、動きが生まれ、目を楽しませてくれる要因の一つとなっています。





手前に台杉、ヤブラン、枝垂れ桜。そして、3トンはあろうかという苔生した石。
雰囲気のある石がスッと存在することで、庭により一層落ち着きが生まれています。




石の表面はこんな感じになっています。
雨が降ると、より色がくっきりして綺麗になります。



ヤブランの様子。
特別目立つものではありませんが、とても優しい風情を持っています。





お隣との庭は、塀を取っ払って一つの庭のようにされています。非常に高い一体感を持っています。
とても良いご近所づきあいで、羨ましいですね。

…ただ、写真には出来るだけ写らないようにしていますが、庭の奥に見えるブルーのビニール小屋とこちらから見た場合のドウダンツツジと灯篭周りの見え方があまりよくないのがかなり気になってしまいます。でも、お隣の庭はうちで作庭したわけではないので、これは仕方ないのかもしれません。
もし、両方をうちで手掛けられたら、また見方を変えた面白い発想で作庭できたのかもしれませんね。






一番奥の石です。
青みがかっていて、趣のある石です。

奥に一つ、置いてあることでそれがまた動きを生むポイントにもなるのです。





井戸ではありません。

ワンポイントで庭を引き立てています。





ゲストハウスと母屋をつなぐ通路。これは、大谷石を使用しています。

母屋の庭も、とても美しいのですが、今回はここまででお終いです。(2012/07/20)